拝金主義を超えた時代
日本の労働環境については多くの問題が指摘されているが、30年や50年といった長い目で見ると、平均労働時間は短くなっているし、マシにはなってきている。
しかし、人の意識というのはそう簡単には変わらないし、むしろ金のためならなんでもやるという傾向は強まっているとすら感じられる。
かつては、家族的経営が浸透しており、労働者が会社に人生を懸けてくれるのと引き換えに、会社は労働者の生活を最期まで保障する傾向があった。
しかし、バブル崩壊後の長引く不況もあり、会社はコストダウンのためなら容赦なく労働者を切る判断をするようになってきた。
「利益を生み出さない者は消えろ」と言わんばかりの行動を容赦なく取るようになったのである。
さらに、労働者の人数が減ればその分一人当たりの仕事量は増えるのがふつうであるが、企業は不況を受けて人員補充に消極的になることが多くなった。
クビにならなかった労働者には、「金を払ってるんだから会社のためにとにかく働け」ということで、過酷な労働を求めたわけである。
長引く不況のせいで、使用者がこうなるのはやむを得ないところはある。
しかし、使用者だけでなく、労働者側も使用者の意向に沿って行動しているところがある。ネットを見ればよくわかるが、金払ってるんだから云々、利益を上げられないならやめろという言動が多くみられる。
「利益を生み出さないのだから何を言われても仕方がない。暴言を吐かれる本人が悪いし、生活の途である仕事を奪われる本人が悪い。」
「金をあげてるんだから、当然それぐらいはやれ。私生活のこととか知るか。」
こんな感じの言動はよく目にするものである(だいたいはもっと乱暴で舌っ足らずな発言であるが。)。
どうやら、現代では「金さえ与えれば人権侵害すら許される」という風潮が割と多くの人に根付いているようだ。
しかし、人の尊厳や人権というものは金を払えば侵してもゆるされるというものではない。
それに、健康や生命が脅かされるほどの労働をしてもらいたいなら、それだけの対価がなければいけないというのが道理なはずである。
なのに、道理など無視して、とにかく金ばかりを追求し、人の尊厳や人権すら軽視されているところが少なくないのが現状である。
21世紀も15年以上経つのに、産業革命が起きたときの資本家と同じような人権無視の考えの人が少なくない。
もはやこの社会は、資本主義どころか拝金主義すら超え、金至上主義になってきているのではないかと思えてくるほどだ。