語られない闇を語る

司法試験、大学受験、労働問題、社会問題などを中心に、あまり語られていない・語りつくされていない闇について語っていこうと思います。苦難と失敗から得た知見を曝け出していく予定です。

被害者の個人情報が平然と報道されてよいのか

 ニュースを見ていると、「会社員の○○さん(××歳、女性)が死亡」といった事件や事故の報道を目にすることが多い。

 特に話題性もないような事故でも当たり前のように被害者の情報が報道されるし、ある程度の話題性のある事件・事故では被害者がどういう人だったかの報道が平然となされて、被害者のプライバシーが公に明らかにされる。

 

 このような報道の姿勢に対して何も気にならない人もいるのだろうが、私なんかは個人情報を赤の他人に勝手に知られたくないと思っているし、そもそもなぜここまで詳しい個人情報を報道する意味があるのか疑問でしかない。

 そこで、今回は、被害者の個人情報が平然と報道されてよいのかについて考えたいと思う。

 

 

○個人情報を報道する意味

 そもそも、何故被害者の氏名等の個人情報を報道するかというと、その人の家族・親戚などの関係者、近所の人々などの知り合いに情報を提供することが一つの理由であろう。

 家族であればさすがに、報道などがなくても情報が伝わることがほとんどなので(例外は長年別居していて音信不通になっていた場合ぐらい)、基本的には周囲の人々への情報提供というのが中心かもしれない。

 

 他には、身近にこういう事件・事故があったことを伝えることで人々に注意喚起をしたり、目撃情報など情報提供を求めたりする狙いもあると思われる。

 

 確かにこう考えると、被害者の氏名等の個人情報を伝える必要性や合理性は一定程度あることが多いのだろう。

 実際には、名前も誰かわからない人が被害者であるより、こういう名前の人が被害者となったと伝える方がインパクトがあり、視聴者受けが良いからというのが主な理由かもしれないが。

 

 

○職業を明らかにする必要があるのか

 しかし、人の職業を明らかにする必要はどれぐらいあるのだろうか。

 別に被害者が会社員だろうとニートだろうとどうでもいいことがほとんどであり、被害者の職業が問題となるようなケースはあまりないのではないだろうか。

 何故、被害者の側が「職業無職」だとばらされなければいけないのか理解に苦しむところである。

 人によっては汚点と考えばらされるのを望まない職業を平然と報道する辺り、マスコミは被害者の人権にまるで配慮していないと言わざるを得ない。

 

 

○職業体系を明らかにする必要があるのか

 それに、あえて正社員か派遣社員かフリーターかの分類をする必要があるのだろうか。

 別に雇用体系が何であるかに重要性などないことがほとんどであり、普通は報道する必要性がないだろう。※1

 

 現代社会において、正社員か派遣社員かは一種の身分であり、派遣社員などはある種の被差別身分なのだから、死んでまで「こいつは派遣」などと世間にばらされたくないと思うのが被害者の心情であることも多そうである。

 報道の必要性もまずないだろうし、ここは被害者の思いをくみ取って報道を避けるべきであろう。

 

 

○氏名を明らかにする必要性が本当にあるのか

 前述のように知り合いらに情報を提供する意味があるので、名前ぐらいは報道してもよいことが多いのだろうが、具体的なケースを見ていると名前を明らかにする必要があるのか疑問なことも多い。

 例えば、被害が軽微であり、ちょっと怪我しただけ、ちょっとお金を盗まれただけのような場合は別に名前を出す必要もないだろう。せいぜい「40代の女性が軽いけがをした」みたいに報道すれば足りるはずである。

 あえて、その場所その時間に現場にいたというプライベートな情報を明らかにするまでもないだろう。

 

 それに被害が甚大な場合であっても、この世の中では「殺される側にも落ち度がある」などという人が少なくないため、平然と名前を出すのはまずい。

 例えば、女がDQNな男に殺されたような場合、「こんなやばい男と付き合ってたろくでもない女なんだろう」、「殺されても仕方がないような尻軽女だったに違いない」といったあることないことを思われ、言われてしまうものだ。

 三鷹ストーカー殺人事件では、被害者のいかがわしい動画がネットで明らかにされ被害者への誹謗中傷が問題となったが、こういう惨事を招く恐れも十分にあるため、本当に被害者の名前を出してしまってよいのかは慎重になる必要がある。

 

 

○年齢を明らかにする必要があるか

 「女性に年齢を聞くな」とは誰もが子どものころに教わったことだろうが、マスコミはどうもその教えを忘れているようであり、平然と被害者の実年齢を発表する。

 しかし、世の中には自分の年齢を知られてたくない人も多いはずだ。ましてや自分の年齢が公に明らかにされ、「意外と年取ってるな」などと思われようものなら、屈辱でしかない。被害者が死んでいたとしたら、死ぬに死ねない思いだろう。

 

 私も「いい年して結婚もしてないのか、子どももいないのか」などとはとてもじゃないが思われたくないし、むやみやたらに年齢を報道されたらマスコミに対しテロを起こしたり化けて出てやるつもりである。

 

 

○性別を明らかにする必要があるか

 ほとんどの人は性別には無関心なので、別に報道しても良いだろうという人が大半かもしれないが、世の中には「戸籍上の性別を公開されるなど死んでも死にきれない」という人も一定数存在する。

 というのも、日本では、性別変更に性別適合手術が必須とされ、さらに20歳未満の子がいないことが要件となっているため(地味に憲法問題と言われている)、社会では女として普通に暮らしていても戸籍上は男のままという人もいるのである。そういう人が被害者となれば、男であったという絶対に知られたくなく墓場までも持っていく情報が社会に大々的にばれてしまうのである。

 

 それどころか日本のマスコミはあまりに無頓着なので、性別変更をしていても昔の性別を明らかにする。

 例えば、少し前に東京で顔剥ぎ殺人事件が話題になったが、その被害者の人は元女性であることを(興味本位で)ばらされている。

 幼少期から堪えがたき苦しみを抱え続け、ようやく望みの性別で生きられるようになり真の自分の人生を歩めるようになったにも関わらず殺されてしまった。その事実だけでもやりきれないというのに、ましてや日本全国に知られたくない自己の過去まで明らかにされてしまったのだからもはや二度殺されたようなものである。

 このようなマスコミによるセカンドマーダーは決して許されてはいけないだろう。私はよく「身体的死に加え社会的死の2回死ね」と言っているが本当に2回殺すことは決して許されてはならない。

 

 

○過去や卒業文集を明らかにして良いのか

 別に加害者がさらされる分には良いかもしれないが、被害者まで過去を勝手に大衆に知らしめる必要があるのだろうか。

 マスコミとしては、被害者を美化して加害者を糾弾するためにそうするのだろうが、被害者としても知られたくな過去はいっぱいあるだろう。

 小学生のころから中二病を患って黒歴史を大量に抱えた私のような人は、美化された過去を語られる過程で文集の恥ずかしい文章まで読まれてしまうおそれがあるわけである。※2

 

 

 長くなるので、この辺でとどめますが、とにかくマスコミはプライバシーのことなど考えずに被害者の個人情報を流しすぎている気しかしません。

 本当に合理的な理由があってやっているのか、被害者が情報公開に強く反対しなといかという点をちゃんと考えてほしいものです。

 

 

※1:「被害に遭ったのが正社員でなく派遣だからまだよかった」と視聴者に思わせたいのかなどと穿った見方をしてしまうが、いったい派遣社員契約社員であることを明らかにする意図は何なのだろうか?

 何も考えずに適当に報道しているだけだとは思うのだが。

 

※2:「有名になったら黒歴史が漁られまくって社会生活ができない状況に追い込まれるから、有名になるような功績を上げられない」と不要な悩みに苦しめられたような人なので、どれだけ黒歴史があるかはお察しである。