語られない闇を語る

司法試験、大学受験、労働問題、社会問題などを中心に、あまり語られていない・語りつくされていない闇について語っていこうと思います。苦難と失敗から得た知見を曝け出していく予定です。

今の時代だったら司法試験を目指していないという話

 新司法試験が始まって10年が経ちますが、法科大学院ブームも今や昔。10年で状況はすさまじいまでに一変しました。

 私は、前から業務内容や独立性、収入の点で弁護士に興味を持っていたこと、「新司法試験では合格者を3000人まで増やす」という謳い文句があったこと(勿論そこまで信用していませんでしたが)、不景気になったときに備えなどから、司法試験合格を目指すことにしましたが、今の時代だったら絶対目指していないという話をしたいと思います。

 

 

1.合格者は予定の半分に、合格率は低くなる一方

 法科大学院ブームが起きたのは、合格者を3000人まで増やし、合格率を70~80%まで上げるとの政府発表により、司法試験が今までに比べてかなり簡単になるものと期待されたからです。

 しかし、10年経った今、当初の約束はなかったものとされ、結局合格者数は、政府の当初の発表とはかけ離れた1800人程度になっていますし、近いうちに1500人まで減ることが予定されています。合格率も8割とは程遠い2割程度です。

 

 しかも、旧司法試験と異なり受験資格の制限がキツく、昔なら当然本試験を受けていただろう法科大学院在校生、大学生、失権者、ロー退学者、社会人も本試験を受けることすらできなくなっているわけですし、合格率が2割と言っても受験までたどり着いた中の2割なのです。

 ブームも過ぎたこのご時世にあえて「司法試験に受かってやろう」と思いいばらの道に飛び込びそれを潜り抜けた猛者の中の2割なのですから、事態は深刻です。

 

 詳しくは下記事に書いていますが、合格者/志願者を真の合格率と考えると、せいぜい7.5%ぐらいしかありません。

 実際には、旧司時代は適当な気持ちで受験した人が多かったわけですし、「適性試験や予備試験などなしに本試験を受けられるなら受ける」という人は法科大学院生以外にも少なくないはずで、実質的な倍率はもっと平成10年以降の旧司に近いのではないかと思われます。


 一応、旧司に比べればまだマシかもしれませんが、合格者数も合格率も当初の予定とは大違いで、平成10年以降の旧司に近い水準になってきたわけです。

 「言っても4割受かったし、最終的に3000人合格させる予定なんだからもっと簡単になるでしょ」と思われた10年前と、「結局合格率は2割切って1500人合格になるし、旧司に比べてほとんど楽になってないじゃないか」との認識になった現在では大きな違いなのです。

 

 私もさすがに合格者が1500人になることが確定している今では、もっと司法試験挑戦に消極的になっていたと思います。2千何百人は受かって3割ぐらいは受かるやろという時代とは違いますからね。

 

 

2.問題難易度はむしろ上がっているようにも思われる

 受験というものはどんどん年を追うごとに予備校に対策されていきますし、受験生間で情報も出回るため、競争のレベルは上がる傾向にあります。大学受験も四半世紀前に比べると各大学で出題される英語の文章量は2倍になっていたりしますし、センターの古文の分量なども年々増加傾向にありました(新制度になるので今後どうなるかは不透明)。

 体操や野球などもそうですが、どんどん新しい理論を取り入れてレベルが上がっていくものなのです。

 

 司法試験も年々予備校がしっかり対策をしてきますし、典型的な問題は既に過去にだいたい出尽くしているため、現在では昔がっつり書かされた問題を速いスピードで大量に処理することが求められるようになっています。今では普段の学習で、基本の確認用に旧司法試験の過去問が使われたりするわけです。

 また、昔と同様理論面をしっかり書かないといけないのは変わらないのに、具体的な事実を分析しそれに評価を加えて結論を出すというあてはめ部分も重要となっています。より多くの情報を処理して的確に答えを導き出さないといけなくなったのです。

 しかも、ただ速さや分量が求められるようになっただけではなく、相変わらずじっくり考えさせるような問題は出ていますし、難解さが大幅に下がるようなこともなく、大量の情報を迅速かつ正確に処理することが求められているのです。

 

 こんなわけで問題の量の多さや、求められることの多さから、問題難易度自体はむしろ上がっていると思われます。

 問題の難易度が上がれば、それだけ対策をし実際に書ききれるようになるまで労力が必要になりますし、受験生にかかる負担の重さは減っていないのです。そら自殺もいじめも局部切断事件も起こるよという話です。


 当初は試験問題自体も「難問・奇問が純粋に減って簡単になる」という予想が出ていたのですが、この10年間「こんなはずではなかった」という教授陣や受験生の叫びがあるように残念ながら試験問題は簡単にはならなかったというのが現状です。

 

 一応、「新司法試験ではもっと難易度を下げて受験生負担を減らすべき」という当初の危機意識をもっている人はまだいるようで、短答試験の科目数は7科目から3科目に減りましたし、今では選択科目の廃止も検討されています。あと、奇問や悪問はさすがに減ったでしょう。

 そのため、問題難易度の点でマシになったところもありますし、今後はさらにマシになる可能性があります。しかし、現状は残念ながらほとんど楽になっていません。

 

 旧司時代に比べ簡単になるという話だったのに、全然簡単になっていなくてむしろ難しくなっている気しかしないなんて世の中嘘つきだらけだなとつくづく思います。

 実際に真剣に問題を解くことなく適当に物事を語っている人があまりに多すぎるんですよね。自分のプライドを満たすためだけに見てもいない新司の問題を簡単と言ってレッテル貼りをするおじさん弁護士たちには心底嫌気がさします。

(それに比べて、真摯に新司の問題に向き合いちゃんと難しさを理解して指導をする教授陣には頭が上がりません。)

 

 

3.平均年収と就職難の悪化があまりにも著しかった

 当初から、将来的な就職難の懸念や平均年収の減少は危険視されていましたが、10年というスパンで一気に状況は悪化し、司法試験のコスパが悪くなったことから、法科大学院の入学者が10年前の4分の1にまで減るオワコンぶりになるまで状況が急激に悪化しました。

 

 さすがに10年で一気に生きていくのも危ぶまれるほどの人が少なくない状況になるとまでは予想されていませんでしたし、年収は減ってもその分受験の負担や合格までにかかる年数やリスクの点が大幅に改善すると思われていました。

 しかし、実際にはリスクやコストが高いまま旨みだけなくなったのが現状です。

 国税庁の統計で所得70万以下が約3割いるのを見ると、「これだけリスク負って、人生かけて頑張って、それでも3割はまともに暮らすことすらできないのか」となるのも当然です。

 

 私もここまで生活していけない人が多い今だったら、業務内容や独立性、上手くいけばかなり稼げる点を見ても、司法試験を目指していないのではないかと思います。

 やはりまともな生活はしたいですし、努力に見合うだけのものは欲しいですからね。今だったらコスパが悪すぎる弁護士でなく、優良企業や公務員を狙うでしょう。今の時代も弁護士にロマンがないわけではないものの、あまりにコスパやリスクがよくないのです。

 

 

4.さいごに

 現在では、司法試験はリスクがあまりにも高いし、コスパが悪いものとして敬遠されてきていますが、10年前とは本当状況が一変してしまったので当然の流れだと思います。

 合格までに道のりやリスクが旧司法試験のときとそこまで変わっていないのに、平均年収はガタ落ちし就職難もあるわけで、リスクそのままに見返りがかなり減っているわけですよ。

 誰かが「今の時代に司法試験を新たに目指すのは狂っている」みたいなことを言っていましたが、一理どころか百理ぐらいはあるかもしれません。

 

 よほど頭脳に自信があってやる気に充ち溢れていて他の仕事に興味なんてないみたいな人以外は慎重になって、他の進路をまずは考えたほうが良いと思います。具体的には予備試験に合格できる又は上位ロー既習に行ける見込みがないなら、進路を変更したほうがよいのではないでしょうか。

 

 問題傾向がガラッと変わったり、選択科目が廃止されたりするなどの改変があればまた話は変わりますが、現状だとオワコンになるのも当然だという印象です。

 仕事内容を見るといまだにロマンはありますが、いかんせんコスパとリスクが酷すぎです。