たばこ税ばかり上げることにどれだけ正当性があるのか
消費税10%化が先延ばしされている情勢もあり、今のところたばこ税を劇的に上げるという動きはまだ本格化していない。
政府としてはとにかく財源が欲しいところなので、国民の支持も厚いたばこ税の増加を行うことのは時間の問題だろう。消費税が10%になる頃には、どさくさに紛れてたばこ税も10円単位ではなく一気に値上げされる可能性が高そうだ。
昨今は喫煙をする場所も限定されてきているし、喫煙率はどんどん下がってきているし、ただでさえ喫煙者の肩身は狭いのに、ほぼ確実にたばこ税も上げられるのである。
私自身は「たばこなんて違法にしてもいい」、「大麻が禁止されるなら当然たばこも禁止にしないとおかしい」とまで思っている人間であるが、たばこばかりがやり玉にあがり、たばこ税ばかり増やすというのは果たしてどこまで正当性があるのだろうかは良く疑問に思う。いくらなんでもやりすぎではないだろうかと。
そこで、今回はたばこ税を劇的に上げることの正当性を考えてみたいと思う。
・医療費増大の点
たばこ税を上げるべきとする一番の根拠は、何といっても医療費増大であろう。
喫煙は、喫煙者の健康寿命を縮めるリスクを上げ、医療費の増大の原因になる。
それどころか、周囲の人の健康も害しており、喫煙の影響は今まで思ったよりももっと深刻であるおそれも強い。
たばこがどれだけ医療費を増大させているかはなかなか正確に測れないが、医療費をかなりの程度増やしている害悪であることは間違いない。社会に損害を与えた者はその損害ぐらいは負担しろというのが当然の理屈だし、医療費増大分は喫煙者が負担しろという話になるのも当然である。
しかし、他人に300万円の損害を与えた場合に5000万円の損害賠償が命じられることがない(米国では懲罰的賠償という制度があるので3倍ぐらいならありうる)のと同じで、どさくさに紛れて高額の負担を負わせることは許容できない。
例えば、1ケース当たり50円しか医療費を増大させていないのに、2000円のたばこ税をかけるといったことは、医療費増大を根拠に正当化できないだろう。
受動喫煙の問題もあるので正確な額の算定は極めて困難ではあるが、「医療費がこれぐらいの額増大しているから、税もこれだけの額上げる」ということをするべきである。それをせずに過度の負担を求めるのはさすがに正当性が乏しいと言われても仕方がないだろう。
ちなみに↓の記事によると、喫煙者は年間1万円医療費を増大させているみたいなので、1日1ケース1年334本ケース吸うとすると、30円ぐらいは医療費増大分として徴収することが当然許されるだろう。
・清掃コスト等の点
たばこをポイ捨てするろくでもない人がこの世にはいっぱいいるため、たばこによって公共の場所の清掃コストも増えるだろう。
あと、公共の場の雰囲気やイメージを悪くするような効果も出るし、住民に不快感も与える。
清掃コストに加え、イメージダウンとかのこともおまけして喫煙者は費用を負担すべきだと思われる。
しかし、雰囲気やイメージを悪くするというのが本当なのかと言われると怪しいし、本当だったとしてもどれだけの額の負担を負うべきなのかはかなり難しい問題だ。安易に関西人の感覚でおまけすることは許されないだろう。
清掃コストと合わせて、多少は税を挙げるだけの正当な根拠になるかもしれないが、高額の負担を負わせるだけの根拠になりえているかと言われるとかなり怪しい。
・他害性の点
たばこは受動喫煙という形で他人にも危害を加える。
因果関係の立証が困難なことと・法律が整備されていないことから、刑罰に問われることはないし民事上の責任を取ることもほとんどないが、他人の健康・生命を害するという社会的利益を失わせる行為をしていることからすると、その分社会に負担を負うべきといえるだろう。
ただ、それを言い出すと、アルコールやギャンブルも他害性がある。
アルコールによって暴行事件が起きることはままあるし、事故を起こすことだってある。競馬や競輪、パチンコなども家族を巻き込み、自分だけでなく家族の人生までめちゃくちゃにする人は少なくないわけだ。
そう考えると、アルコールやギャンブルについても税という形で社会に与える損失をカバーすべき必要性は高いだろう。
そうなると、たばこ税ばかりを重くするのはやはり正当性に欠くのではないか。酒税ももっと上げるべきだし、パチンコにもっと課税すべきであって、せめて均衡をとれという話になる。
・パターナリズムの点
たばこの値段を上げることで、健康に害を与える喫煙をやめさせるべきという考えも税を上げる根拠となっている。
WHOがたばこ税の増加を推奨しているのもこれが理由であろう。
確かに、人の健康や生命はかけがえのないものなので、それを大事にするために、たばこの値段を上げることで喫煙の抑止を図るというのはある程度合理的である。
しかし、他人に迷惑をかけない分には悪い趣味・娯楽であっても、それに興じる自由は保障されるべきである。
堕落する自由もある程度は認められていいはずであり、それをやめろと推奨する程度のことならまだいいが、強く抑止することまで許されてよいのだろうか。
それにいい大人になってまでパターナリズム的な制約が認められるのかという問題もある。
以上のことを考えると、たばこ税を劇的に上げる正当な根拠があるかはかなり怪しい。
他の税と比べて徴収することに国民の理解があるだろうし、上では挙げなかった様々な政策的見地もあるので、ある程度は上げることが正当化できるが、1ケース2000円とかにするのはさすがに正当性に欠くように思われる。
では、1ケース1000円だとどうだろう。
オーストラリアはほぼ2000円だし、欧州でも1000円を超える国がいくつかある。物価の違いを考慮しても、1000円ならまだ許される気もしなくはない。
しかし、本当に正当化できるのと言われると、私には自信がない。
まあ現実には、正当性とかほとんど議論されずに、「喫煙は害悪だし本人のためにもなる。欧州も1000円とかだし、日本でもどんどんたばこ税を上げていこう。1000円ぐらいでも別にええやろ」と適当なまま流れが進んでいくものだと予想しますけどね。